2011年01月27日
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面白ショートショート『ポケットサンスター』

Written By: 遠野秋彦連絡先

 「サ」と「シ」は泥棒の兄弟でした。

 彼らが盗むものは星。夜空の星をこっそり盗みだし、ポケットに入れてそしらぬ顔で町を歩くのが好きでした。

 彼らの武器は星を捕獲する専用銃、『ピッカー中』でした。泥棒の味方、四谷大木戸博士が作った超兵器です。これを夜空に向けて引き金を引けば、星は小さくなって「サ」と「シ」のポケットに収まる仕掛けでした。

 ある日、「サ」は言いました。

 「なあ、俺たちこのままでいいんだろうか」

 「どうしたんだよ、あんちゃん」

 「誰も気付かない小さな星を盗んでヒーロー気取りは子供っぽいかもしれない」

 「じゃあ、どうするんだよ」

 「俺にいい考えがある。誰でも絶対に気付く星を盗む」

 「まさか。北極星でも盗もうっていうのかよ」

 「そうじゃない。狙うのはそんな小さな星じゃない。絶対に誰でも盗まれれば気がつく星」

 「そんな星があるのかい?」

 「そうだ。太陽だ」

 「無理だよ。俺たちのピッカーは中サイズだぜ。大サイズなんて持って無いし。しかも、大でも入るか分からないよ」

 「馬鹿だなあ、太陽も星もみんな同じなんだ。ただ距離が近いから見かけが大きいだけだ」

 「えっ?」

 「ピッカー中でも太陽を盗める。あんちゃんが保証する」

 試しに弟の「シ」が太陽に向けてピッカー中の引き金を引くと、太陽はあっさり「シ」のポケットに落ちてきました。

 しかし、太陽が無くなり、地球は急に真っ暗になりました。

 すぐ人々は騒ぎ始めました。

 「サ」と「シ」は大満足でした。

 「すごいね。3等星を盗んだときとは大違いだ」

 「あのときは、天文学者が騒いだだけで他の誰も無視だったものな」

 しかし、すぐに「サ」と「シ」は困ったことになりました。いきなり物価が高騰し、しかも、食料品が店頭から激減したのです。太陽がなければ植物は育たず、それを餌にする家畜も育たず、買い占めも起こり、すぐに「サ」と「シ」は飢える羽目になりました。

 「にいちゃん、太陽は盗んじゃいけなかったんだよ」

 「そうだな。すぐ太陽を返そう」

 「でも、盗む方は知っていても返し方は知らないよ」

 「そうだ。ピッカーには盗む機能があるんだから、返す機能もあるはずだ」

 「あっても操作方法が分からないよ」

 「ピッカーの発明者の四谷大木戸博士なら知ってるはずだ」

 「そうだ。全ての泥棒の味方って言うあの博士ならきっと力になってくれるよ!」

 「サ」と「シ」はすぐに博士の研究所に向かいました。

 しかし、研究所では喪服を着た娘が泣いているだけでした。

 「どうしたんですが、娘さん。博士はどこですか」

 「実は……博士は既に飢え死にしていました」

 「まさか。あんなに羽振りが良かったのに」

 「博士は泥棒の味方だったので、飢えた泥棒達を放っておけず、食料を振る舞いました。でも、泥棒達は手癖が悪いので、振る舞われる以上の食料を食料庫から奪って行きました。博士はいつも自分の食べる分まで盗られて……。霞のように消えてしまいました」

 愕然とした「サ」と「シ」は、その隙に隠れていた女の仲間に身ぐるみを剥がされ、殺されました。女は博士の娘のような身内ではなく、博士の食事まで盗んだ泥棒の一味だったのです。

 泥棒達は、「サ」と「シ」のポケットから小さくなった太陽を発見しました。

 「綺麗な小さな光る球ね。でもお腹の足しにならないから、こんなの要らないわ」

 泥棒達は小さくなった太陽をポイと捨てました。

(遠野秋彦・作 ©2011 TOHNO, Akihiko)

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